January 14, 2005

なにわバタフライ (パルコプロデュース、05.1.13 パルコ劇場)

butterf一部NHKの大河ドラマと並行しての作業だったのだろうか、「新撰組」の幕切れとダブりながらスタートした三谷幸喜の新作である。会場は、東京サンシャインボーイズを休業して以来、三谷芝居の常小屋となっているパルコ劇場で、『出口なし!』、『君となら』、『巌流島』など、それほど作者にご執心でもないわたしでも、結構、足を運んでいる。
今回の書下ろし『なにわバタフライ』は、ミヤコ蝶々の半生(本人はとっくに故人だが)を描いたもので、戸田恵子がひとり芝居を演じる。戸田恵子は演劇好きなら知らぬ者のない芸達者な女優で、三谷の『オケピ』などの舞台も踏んでおり、映画『ラヂオの時間』では日本アカデミー賞の助演女優賞を受賞している。
全一幕で、場面はミヤコ蝶々の楽屋(あるいは自宅)という設定である。彼女についての本を出版するという企画が持ちあがり、若手の編集者が晩年の彼女を訪ねてくるという物語だ。子どもの頃に父親に連れられて行った寄席がきっかけとなり、芸人人生を歩むこととなった自身の半生記について、主人公はまるで問わず語りのように、時代を追って語っていく。
戸田のミヤコ蝶々役は、期待に違わぬ出来映えで、役作りもほぼ満点。時に、彼女自身の顔が別人に見えるような役への入り込みを見せたりもする。芸人として、そして女としての成長を、男性との関係の機微を通じて、木目細かに演じていく。舞台のあちこちに配置された小道具をうまく使って、さまざまな時代の主人公を演じ分けていく、という趣向も成功している。
とまぁ、それだけでも十分に見ごたえある芝居なのだが、終盤間近になって、にわかに緊張感が高まり、それと同時に作者のある企みが浮上する。これには、心底感心した。ひとり芝居という形式を、ここまで見事に生かした本も珍しいのではないか。三谷の才人ぶりには、改めて驚かされた思いだ。幕切れ間近のサプライスで、幕が降りてからのカタルシスも格別なものとなった。マリンバの生演奏を活かした舞台音楽も、いい味を出していたと思う。

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December 23, 2004

消失 (NYLON100℃ 27th SESSION、04.12.19マチネ 新宿紀伊国屋ホール)

shousitsuNYLON100℃の新作『消失』は、兄弟愛の物語である。そう、あえて愛という。中年目前といった30代の兄弟を、みのすけと大倉孝二がいい感じに演じている。
時代は、おそらく近未来の地球のどこかの国。世界は、核戦争後を思わせる終末観に満ち満ちている。兄のチャズ(大倉)と弟スタンリー(みのすけ)は、人里はなれた屋敷で、仲良く暮らしていた。ふたりはクリスマスのパーティを準備しながら、スタンリーの女友達スワンレイク(犬山犬子)の到着を待ってる。プレゼントを用意して、彼女と会うのを楽しみにしているスタンリー。その弟に兄は、今晩こそ彼女を口説くように、と説得する。しかし、彼女があさりのアレルギーであったことから、その晩は散々な結果に終わってしまう。
一夜明けて、意気消沈する弟をなぐさめる兄。そこに、怒ったスワンレイクがやってきて、ひと騒動が持ち上がるが、やがて彼女とスタンリーはよりを戻し、これまで以上に愛し合うようになる。しかし、そこに、ひとりのガスの修理人(八嶋智人)が登場する。彼の登場をきっかけとして、いわくありげに弟を愛する兄のと、無邪気に兄を愛する弟の間に横たわる秘密が暴かれていくことに。
公演チラシを手にしたときは、その濃いブルーの色調から暗い話を連想したが、それは当たらずとも遠からず。しかし、辛気臭い話ではない。サスペンス・スリラーのドラマを基調として、そこには悲劇のカタルシスがきちんと折りこまれている。仕掛けへと向かう緊張感あふれるドラマは、一種の美学とでも言いたくなる作劇術によるもので、ジャンルは違うがヒッチコックを連想させたりもする。確か、以前の『フローズン・ビーチ』に非常に似たつくりである。
舞台装置もよく練られており、それがクライマックスで活かされるあたりが素晴らしい。間借り人のエミリアを演じた松永玲子や、スタンリーの秘密を握る人物のひとりであるドーネン役の三宅弘城も、物語にスパイスをきかせる好演でドラマを引き締めている。ただ、2時間40分(とのアナウンスだったが、実際にはもっと長かった)という上演時間はやや長すぎる気がした。

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December 08, 2004

SHIROH (SHINKANSEN☆RX 04.12.7 帝国劇場)

さて、帝国劇場の新感線である。しかも、初日である。
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タイトルの『SHIROH』は、天草四郎のシローであり、題材は島原の乱。とくれば、新感線、というか座付の中島かずきお得意の時代劇である。帝劇で、チケットも1万円を越えるということで、少々心配も先にたった公演ではあったが、それは見事杞憂に終わったようだ。いやぁ、実に素晴らしい。最近、これほど興奮した舞台も珍しい。
この芝居(ミュージカル)の成功は、ひとえに中川晃教というヒーロー役の天使にたとえるべき美しき歌声に負っていると断言する。ただし、その成功をさらに磐石のものとしているのは、松平伊豆守信綱という強烈な悪役にもスポットを当てたことであり、さらにそれを見事に演じきった江守徹の名演にほかならない。(ただし、歌は下手だったが)
中川という役者は初見だが、とにかく歌が素晴らしい。友人によると、「MOZART!」(2002年日生劇場)でも抜群の歌声で観客を沸かせたそうだが、この大役はこの歌声の持ち主でなければ演じ切れなかったに違いないと思わせるほどの歌いっぷりだ。対する江守のアクの強さも、地の役柄なのだろうが、迫力に満ちている。個人的には、伊豆守の密偵役、伊賀のくの一お蜜を演じた秋山菜津子の女の強さと弱さをきびきびと演じる姿にも心を奪われた。脇を固める小劇場出身の高田聖子、池田成志、橋本じゅんらも好演だったが、3人の芝居っぷりはそれらを遥かに圧倒していた。
また、中川の声質とぴったりなじむ岡崎司の楽曲も良かった。幕が降りてからも、まだ中川の歌を聴いていたい気分に囚われた観客も多かったに違いない。かくいうわたしも、勿論、そのひとりだった。帝劇という大舞台で、大仕掛けのミュージカルをたっぷりと堪能した一夜でした。

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December 03, 2004

12月の芝居

12月は忙しい月と世間の相場は決まっているようだけれど、二足のわらじでヤクザな稼業のわたしも一応その例に洩れない。でも、だからと言って、観たい芝居を諦めるてのもしゃくだよね。まず、〝新感線〟のロックミュージカル『SHIROH』だけど、なんとついに新感線、帝国劇場に登場だ。これまでもロックミュージックをフィーチャーした舞台は沢山あった(コンサートもあったぞ)けど、今回わざわざ〝ロック・ミュージカル〟と銘打っているあたりに、作家中島かずきの意気込みがあるような、ないような。贔屓の高田聖子が出るし、古田新太はいないけど、池田成志がいる。人気が出てしまったおかげで、チケットは入手難だし、値段も高いけど、プラチナペーパーに見合う舞台であってほしいと願う。
そしてもうひとつ、〝ナイロン100℃〟の『消失』は、どんな内容になるのだろう。チラシは、シリアスなドラマを予感させるけど、そこはナイロンだしなぁ。饒舌な笑いを、うまく織り込んでくれるものと期待してます。前回の『男性の好きなスポーツ』は、なんと3時間を越える長さで驚いたけど、今回はどうかな。
上記の2公演はチケットを抑えてあるのだけれど、もうひとつ、すごく気になる芝居があって。それは、〝ブラジル〟の『美しい人妻』(王子小劇場)というやつ。
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実は、10月に〝プレイメイツ〟の『SWAP2004』(シアタートップス)を観て、野口かおるという凄い役者と出会ってしまったのだ。その天然系ともいうべき闊達な芝居ぶりに、ひと目で惚れこんでしまった。野口かおるは、本来は〝双数姉妹〟という劇団に所属しているので、ブラジルの『美しい人妻』には客演ということになる。ブラジルの舞台は初見なので、正直海のものとも山のものともつかないけど、なんだか野口嬢が出るというだけで、ワクワクさせるものがある。なんとか時間を捻り出して、当日券で駆けつけたいものだ。

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November 21, 2004

嘘と真実 (演劇ユニット〝トレランス〟二人芝居Vol.1 04.11.13 新宿シアタートップス)

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公演間近にもかかわらず、あっさりとチケットがとれたので、客の入りが心配だったけど、わたしが観た日(回)は、立ち見が出るくらいだったので、まずはほっとした。ひと昔前だったら、このふたりの組み合わせは、プラチナペーパー必定だったろう。
上杉祥三が書いたこの芝居は、劇場の楽屋を舞台に、全編を敏腕刑事(上杉)と婦人警官(長野里美)のダイアローグで見せるミステリ劇である。本の出来は、完璧なフェアプレイとまではいかないが、ミステリとしての肝も一応きちんと押さえられている。
天才と謳われた女優が劇場で変死を遂げるが、事件性が明らかにされないままに、自殺として始末されようとしている。それに納得がいかない刑事が、婦人警官を相手役に、事件とその周辺を再現しながら、真相を推理していく。
ふたりが、それぞれ事件関係者になりきって、事件を再構築していくというのが演劇的な仕掛けとなっていて、いわずと知れた芸達者のふたりだけに、丁々発止のやりとりが全編よどみなく繰り広げられていく。
例によってオーバーアクション気味の上杉の芝居の前では、長野里美はやや抑えた感じに映るが、シリアスとコメディエンヌの才を兼ね備えた独特のいい味は健在である。ふたりの呼吸もあっていて、舞台としての仕上がりもまずまずといっていいだろう。
第三舞台以来の長野ファンとしては、彼女がハメを外す姿をもっと観たかった気もするが、現在の女優としての充実は十分に伺える芝居だった。何はともあれ、長野の溌剌としたキュートな姿を久々に拝めて、満足のいく舞台でありました。
(トレランス二人芝居Vol.1、新宿シアタートップス)

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