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March 10, 2006

ファイブ・ミニッツ●劇団桃唄309 (中野ザ・ポケット,05.12.02)

fiveこの劇団の得意技として、ISIS(自立不可能舞台装置システム)というのがあると聞いていた。これは、劇中の舞台装置を出演者たちが人力で支えるというもので、役者たちは本来の出番以外も書き割りなどを抱えて、舞台に登場しなければならない。そのせいか、彼らは舞台の周囲に待機していて、舞台とその周辺はなんともせわしない状況になってしまうのだが、物語が進行するにしたがって、何か役者や動く舞台装置などを含めて独特の一体感のようなものが生まれてくるから不思議だ。
幕開き、冒頭から緊張の場面である。刃物を手にした男が、人質をとって遠巻きにする野次馬たちを威嚇している。男は、どうやら何かに追いつめられているらしい。やがて、物語は過去へさかのぼったり、未来へと飛んだりしながら、拡散して、再び冒頭の場面へと繋がっていく。どこにでもありそうな平凡な町に訪れた危機とは、何であったか。謎のベールがはがされていく。
タイトルの「ファイブ・ミニッツ」は、積み重ねられていくエピソードのひとつひとつのことを指すのだろう。その名の通り、その断片のひとつはわずか5分間のものだが、そこには凝縮された物語がある。さりげないエピソードと思わせておいて、実はパズルの一片として重要な手がかりであったりするから、いい意味での緊張感があるのだ。時系列を無視する展開もあるが、観ていて判りにくさはまったくなく、役者たちが物語の全体像をきっちり咀嚼しているのが判る。この劇団は初体験で、客演を含めてわたしは初めて観る役者さんが多かったが、それぞれの個性的な役作りには、随分と感心させられた。
先のISISについてさらに言えば、舞台をシンプルにするとともに、舞台装置を効果的に使い、それが役者たちの自由度を増しているような気がする。そういう面白さの中で、冒頭のシーンに始まる多彩な登場人物たちが織り成す複雑なジグソーパズルが、出来上がっていく過程を観るような物語が語られていくのだから、これは快感だ。
印象に残った役者を書きとめておくと、にうさとみ、森宮なつめ、入交恵、小林さくら、佐藤達。秋の次回作は、劇団桃唄309の中でも定評のある演目の再演らしく、大いに興味をそそられる。どうやら、贔屓の劇団がまたひとつ増えてしまったようだ。

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March 05, 2006

パズラー (2004)

d1114097821「ソウ」のイメージそのままのDVDパッケージ。さらには、この邦題。(原題は、〝FATEFUL TREASURE〟)これだけ商魂逞しく迫られて、手を出さないミステリ映画ファンはいないでしょう。監督のミヒャエル・カレンはドイツの人で、そもそもこの作品自体はTVムービーとおぼしい。
バカンスを4人の仲間たちと過ごすために、トニ(マリー・ツイールッケ)はアルプスの山中にやってきた。途中、事件があったのか、検問所で警察官から気をつけていくよう注意される。山荘についた5人の男女は、キッチンでとんでもないものを発見してしまう。そこには、3人の見知らぬ男たちの死体が横たわっていたのだ。慌てた彼らは、下山しようとするが、途中で車の事故を起こしてしまい、折からの悪天候もあって、結局山荘に釘付けにされることに。
テレビに流れるニュースから、美術館を襲った強盗犯のグループがアルプスの方面に逃げたらしいことを知り、その犯人たちが仲間割れの末に同士討ちをしたのではないかと推測する。そんな折、死体から時価500万ユーロのロシア皇帝の黄金の首飾りを発見してしまう。欲にかられて、それを頂いてしまおうというトニの弟の提案に、大きく揺れる5人組。翌朝、保険調査員を名乗る男が現れ、事態はさらに混乱するが。
キューブリックの「シャイニング」の冒頭をネガとすれば、それをポジに変えたようなイントロの風光明媚なアルプスの景色が美しく印象的だ。しかし、この映画の長所は、そこでおしまい。あとは、延々とお手軽な2時間の推理ドラマ乗りの物語が繰り広げられる。もちろん、謎もサスペンスも希薄で、あのとんがった傑作「ソウ」には及ぶべくもない。そのタイトルとパッケージ(おまけに大げさな解説文)に見事騙されました。ある意味、あっぱれ。(BOMB)

(ネタばれ)
翌朝、やってきた保険調査員は、強盗団の手先だった。やがて、調査員は、彼らを殺し、秘宝を取り戻そうとするが、隙をつかれて殺されてしまう。ちなみにサプライズ・エンディングは何もありません、念のため

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March 04, 2006

君はヲロチ●双数姉妹 (新宿THEATER/TOPS, 05.12.1)

worochi花組芝居からの客演、さらに初の時代劇ということで、果たしてどんな芝居になるのか興味半分、不安半分だった双数姉妹の新作だが、なるほど、現代劇とシンクロするドラマときたか。時代劇というと、わたしの中ではいささかコンサバなイメージがあるのだけれど、ふたつの物語をパラレルに語るこの手法だったら、この劇団の芝居として十分に成立するなぁ。
さとみ(帯金ゆかり)は、友人の真澄(大倉ヤマ)から紹介された援助交際相手のサラリーマン定岡(小林至)が余命いくばくもないものと思い込み、彼のためなら何でもしてやろうと決心した純情な女子高校生。ところが、間に入った真澄の恋人である水内(中村靖)は、定岡の金をさとみに渡さず、ネコババしていた。定岡の上司(今林久弥)から邪魔をされたりしながらも、ぎこちない交際を続けるふたり。しかし、定岡も気弱なところがあって、さとみに体の関係を迫ることができない。
一方、室町時代のとある旧家。巨万の富を誇る鈴木九郎(今林久弥)には、妻のお芳(山下禎啓:花組芝居)との間に、目に入れても痛くない一人娘のお清(近藤英輝)がいた。ところが、金とためなら人を殺めることをなんとも思わない当主の悪事がたたってか、婚期を迎えたお清の肌には蛇の鱗が生えていた。そんなお清に、使用人の佐吉(阿部宗孝)、が恋をしてしまう。ふたりは、駆け落ちしようとするが、九郎は財産の隠し場所を知る佐吉を口封じのために殺そうとする。
ふたつの話に、それほど強い結びつきは感じられないが(一応、金と恋をキーワードとしているようだ)、双方を繋ぐ役割でふたりの黒子(伊藤伸太朗、松本大卒:チャリT企画)が登場する。双数姉妹のレギュラー陣も相変わらずの達者ぶりを見せるが、今回のハイライトはなんといっても女形のふたりの熱演だろう。今回限りで退団するらしい近藤にも独特の色気が漂っていたし、花組芝居からの山下の存在感はさすがと思わせる。
ただ、それだけではいい芝居でしたね、で終わってしまうところを、前回に引き続いて北京蝶々から客演の帯金ゆかりが、爽やかな風を吹き込んでみせる。そういう意味では、チャリT企画のふたりも、饒舌な黒子として面白い存在感を出していた。彼らが持つ、いささか未熟だが、しかし新鮮なバイタリティは、いまや小劇場の芝居としてベテランの域に達してしまった双数姉妹のような劇団には、不可欠のようにも思えるが、どうか。

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