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January 19, 2006

学習しない女●オッホ(新宿THEATER/TOPS, 05.11.23)

gakushuuかなりお気楽な人生を送っているわたしだが、今から溯ること四半世紀前は、今の百倍はお気楽な日々を送っていた。当時は、土曜も半日会社があって、昼からは新宿あたりのレコードショップや書店を冷やかしたりして、のんびりとした午後を過ごしたものだった。その頃、通りがかったシアタートップスのマチネにふらりと入るのがちょっとした楽しみだった。わたしの移動ルート上に位置していたシアタートップスは、そんなときまさにうってつけのロケーションだったのである。
つい先日のこと、偶然休日の午後に新宿で2時間ほどの時間が空いたので、本当に久しぶりにシアタートップスのマチネに飛び込んでみることにした。やっていたのは、オッホという劇団の「学習しない女」という芝居である。オッホという劇団については寡聞にして知らないが、10年以上のキャリアがあるようで、HPを検索してみると、ここ数年は年1回くらいのペースで芝居をうっている。
主人公の矢島(入江聡子)は、売れないTVの脚本家である。彼女は、ディレクターからの強引な依頼で、深夜枠のドラマの脚本を書き下ろすことになった。テーマは、学習しない女。彼女の中でドラマが膨らんでいく中、フィクションと現実が交錯しながら、さまざまな学習しない女の物語が繰り広げられていく。
入れ子の構造や現実と虚構が錯綜する物語は、いかにもこの手の小劇場の芝居らしさを備えているが、正直言ってあまり面白くはない。脚本は、作者の黒川麻衣の経験を踏まえたもののようだが、そこに登場するエピソードのひとつひとつが凡庸であり、イメージが膨らんでいかないからだ。またそれを演じる役者たちにも突出した個性を見出せないのも物足りない。
ただひとり、主人公の家に(何故か)居候(?)している男樫山(人見英伸)に不思議な存在感があるのだが、それとて思わせぶりなまま物語は幕となってしまう。どうも、作品のテーマやそれの咀嚼の仕方が、演出家や役者たちの中だけで完結してしまっているのではないだろうか。長年芝居の世界に身を置いた演劇人たちの、「こんなもんだろう」という馴れ合いの空気ばかりが伝わってくる寂しい舞台でありました。

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January 15, 2006

ウソツキー●猫のホテル (下北沢ザ・スズナリ 05.11.8)

usotuki1970年、その年日本のロックはひとつの進化を遂げた、なんてちょっと大袈裟かも。でも、細野晴臣(b&vo)、大滝詠一(vo&g)、鈴木茂(g&vo)、松本隆(ds)の4人からなる〝はっぴいえんど〟が、URCレコードからデビュー・アルバムをリリースしたのは、ある意味、日本のロック史におけるひとつのマイルストーンであったことは間違いない。
その頃、わたしはどうしていたかというと、東京練馬にある中学に通う中学生で、毎月小遣いで購入する〝ミュージック・ライフ〟を隅から隅まで読んでいた。残念ながら、少ない小遣いではそれがやっとで、はっぴいえんどのLPまでは買えなかったけれど、彼らがそれまで日本のロックシーンで通説だった〝日本語はロックに乗らない〟を覆した最初のバンドであったということは、強く印象に残っている。
猫のホテルの新作「ウソツキー」には、その実在したロックバンド〝はっぴいえんど〟の四人が登場する。舞台は、山中の湖畔とおぼしき静かな別荘。そこに、別荘の所有者の高尾(池田鉄洋)とともに、かつての音楽仲間である三井(岩本靖輝)や家永(久ケ沢徹)、それに家永が連れてきた壕(市川しんぺー)らがやってきている。近くの雑貨屋から食材の配達に来た吉田(佐藤真弓)が高尾が分かれた女と瓜二つだったことに驚く彼らだったが、そんな折、当の良子(佐藤真弓の2役)が、慰謝料の件で担当の会計士横田(森田ガンツ)を連れて現れたから大変。良子は、かつて高尾のほかに、家永、横田らとも関係があったのだ。
折悪しく、ミュージシャンを志す少年明人(菅原永二)が父親と現れ、コンテストの審査員だった高尾のことを恨み、彼の弱みを探ろうと彼の別荘へ乗り込んでくる。父親の美代治(中村まこと)は高尾のことを調べているが、溺愛する息子と、かつて自分がバンドマンだった頃のグルーピーで今も続いている小枝(千葉雅子)との関係の間で悩んでいる。やがて、親子関係の摩擦が、とんでもない事態を招くことに。
名前こそ変えてあるが、高尾をはじめとする四人は実在するわけで、そうなるとエピソードも極端な虚構というわけにはいかないだろうと想像すると、かなり厳しい舞台になるのではないかと懸念していた。しかし、それは杞憂だったようだ。別荘を舞台にした現在から、脚本は巧妙にも無理なく観客を過去へと連れていく。四人が出会い、バンドとしてのテンションを高めていった時期へと、さりげなくタイムスリップしてみせるのだ。
そこで四人は実際に舞台のうえで1曲演奏してみせるのだが、主宰の千葉がやりたかったのはまさにそれではないかと思った。いや、演奏そのものではなく、それを通して、あの時代、すなわちロック・ミューッジックの黎明期を包んでいた時代の空気のようなものの再現。そういう意味で、彼らを演じる四人の役者たちは、すっかり当時の彼らになりきっていたし、おそらくはフィクションを交えているであろう史実の物語を、見事に語ってくれたと思う。
客演も含めて、芝居の達者さがこの劇団の売りだと想像するが、千葉雅子の脚本もそれぞれのキャラクターを最大限に生かしていて素晴らしいと思った。バンドの四人や、少年役の菅原あたりは登場人物としての必然性を持たせ易いとは思うが、市川しんぺーの役柄など、このストーリーに嵌め込むのは普通は無理でしょう。それを実にスムースに実現し、物語にさらなるふくらみを持たせることに成功している。その手腕、唸らされました。

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January 02, 2006

浪漫座別館/スターレス:J・Prog Summit 2005(恵比寿ギルティー, 05.11.05)

romanza当初は、最近頭角をめきめきとあらわしてきてるFantasmagoriaも参加する予定だったというこの日のイベントだが、関西プログレ・シーンを代表する2バンドを同時に観られるだけでも、その充実度はかなりのもの。昨年の復活以来の快進撃が続く新生スターレスとページェントの血を継ぐ浪漫座別館のジョイント・ライブである。恵比寿のギルティーというライブハウスは初めてだが、ゆったりしたスペースと雰囲気で、まずまず悪くない会場だ。
この日は、実は浪漫座別館のレコ発ギグの予定だったのだが、諸般の事情で発売は年末に順延になってしまったらしい。ただし、スターレスが先に舞台に立ったのは、トリを譲ったのではなく、堀江のドラムセットゆえとのことで、なるほどステージ上のセットは短時間じゃセッティングなどできそうにないくらい賑々しい。
現在のスターレスは、ボーカリストでカウントするならば第四期にあたり、メタルバンドのSIEGFRIEDから荒木真偽をハントし、ジュラ在籍期に続き、二度目の黄金時代を迎えているといっていいだろう。リズム隊が磐石なのは言うまでもないが、真偽の自信に満ちたステージングと、ルーツは歌謡曲?と思わせるほどの印象的な歌メロでぐいぐい迫ってくるのは、この日も同じ。オープニングからアンコールまでのあっという間の1時間あまりを楽しませてもらったが、最大の収穫は、待望久しいアルバムの製作に入るというニュースが寿太郎御大の口から発せられたことだろう。その間しばらくライブがないのは寂しいが、早いところ新アルバムを届けてほしいものだ。
ところで、その際新曲もいいのだが、かつでMADE IN JAPANから出ていたライブ・アルバムに収録されていた曲を新録音でぜひ入れてもらいたい。〝Stage〟なんて、涙ものの名曲もありましたよねぇ。ぜひたのんます。あと、蛇足ながら、GWの神戸のライブでその片鱗をのぞかせた大久保率いる若き(?)ハードロックバンドのFIGA(森口亮vo&g、水谷祐一朗g、村中ろまん暁生dr、上村禎徳key)も現在音源を作っているようで、そちらの方もど~んとライブをぶちかましてもらいたいもんだ。
さて、別館というややこしいネーミングの浪漫座別館は、かつてページェントを率いた中嶋一晃が現在やっているバンドで、本館の方がページェントのカバーバンド、こちらの別館がオリジナル曲をやるバンドという使い分けをしているらしい。過去に東京でのライブも敢行しているが、個人的にはページェント脱退後に中嶋が結成した夜来香というバンドが、いまひとつ耳に馴染まなかったことの後遺症から、浪漫座別館にも興味が湧かなかった。しかし、いよいよファーストアルバムがリリースされるというので、ちょっと観てみようかという気になったのだ。
駄菓子売り、中の島ガッツブラザースのコントと、いかにも中嶋好みの幕開きから、ライブは賑やかに始まった。ボーカルのひなの堂々たる歌いっぷりに目と耳を奪われているうちに、ステージはどんどん進んでいく。曲想は、フロマージュ、ページェント、夜来香と歩んできた中嶋一晃というアーティストのテイストというか好みのようなものを感じさせるものばかりだが、実はソングライティングはキーボードの北白川妙朗の力が大きいらしい。〝ホテル・パノラマ〟、〝恋する王様〟など、ひとつひとつの曲の完成度はかなり高いと見た。
それにしても、ひなというシンガーの存在感はなかなかのもので、軟硬両面を見せながらのステージの運びにはほれぼれした。中嶋一晃というのは、本当に女運、いや女性ボーカリスト運のいい人だ。またテラローザにいた浜田勝徳のベースも乗りがよく、全体を引き締めている。ところどころ息切れしていた座長中嶋だが、気持ちよさそうにハケット乗りでギターを弾いていたのも印象的。アンコールの〝セルロイドの空〟は、ページェント時代からのお約束だが、この日の演奏は、まざに円熟の境地を感じさせるような出来映えで、思わず涙が出そうになった。
後日手に入れた彼らのアルバム〝東方大ロマンス〟には、帯に〝「螺鈿幻想」から二十年〟とあった。もうそんなに経つのかという感慨とともに、その長いキャリアを経て、これだけのメンバー(前記のほかに、泉谷賢、中嶋秀行)に囲まれ、充実のライブを繰り広げることができる中嶋一晃のミュージシャン冥利のようなものを羨ましいと思った。

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